Ⅴ   最新法令紹介コーナー

「障害者差別解消法の改正について」

弁護士松田崚(会員)

目次

 障害者差別解消法の概要

 改正経緯・改正法の施行期日

 改正内容

 衆議院・参議院における附帯決議

 改正法施行に向けての準備作業(障害者政策委員会における基本方針改定等)

 今後の課題

 

 

Ⅰ 障害者差別解消法の概要

1.はじめに

2021(令和3)年528日、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下「障害者差別解消法」という。)の一部の改正法が成立した。

2.障害者差別解消法の成立経緯・内容

障害者差別解消法は、障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という)批准のための国内法整備の一貫として2013(平成25)年6月に制定され、施行されたのは2016(平成28)年4月からである。その目的は、「全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別を推進し、もって共生社会の実現に資すること」(1条)であった。

この障害者差別解消法は、行政機関等及び事業者に対して障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の提供を義務付けた。しかし、事業者に対しては、合理的配慮の提供は「努力義務」にとどまっていた。これは、障害者と相手方の関係は様々であり、求められる配慮も多種多様であることから、障害者差別解消法においては、合理的配慮について、国の行政機関や地方公共団体等には法的義務を課し、事業者には努力義務を課した上で主務大臣が策定する対応指針により自主的な取組を促すこととされていた。

3.法施行後3年経過の改正

ところで、障害者差別解消法では、法施行後3年を経過した場合に事業者による合理的配慮の在り方その他の施行状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行う旨の見直し規定が定められていた(附則7条)。その趣旨は、法施行後具体的な相談事例や裁判例等の集積状況も踏まえ、必要があると認めるときに所要の見直しを行うための検討をすることにあった。

法施行後3年が経過したため、今般、障害を理由とする差別の解消の一層の推進を図るための改正が行われ、2021(令和3)年528日、障害者差別解消法の一部を改正する法律が成立した(以下、障害者差別解消法につき単に「法」ということがある。また、その区別のため改正前のものを「現行法」、改正後のものを「改正法」ということがある)。

 

Ⅱ 改正経緯・改正法の施行期日

1.改正経緯

附則7条の検討規定を踏まえ、内閣府の障害者政策委員会で見直しの議論が行われ、2020年(令和2)年6月、障害者政策委員会による『障害者差別解消法の施行後3年後見直しに関する意見[1]』(以下『意見書』という)が取りまとめられた。当意見書では、事業者による合理的配慮の提供について、更に関係各方面の意見等を踏まえつつその義務化を検討すべき等とされたことから、これを受けて、内閣府では同年10月に事業者団体及び障害者団体へのヒアリングが行われた。その結果も踏まえ、政府が提出した障害者差別解消法の一部を改正する法律案は、衆議院及び参議院においていずれも全会一致で可決され、2021(令和3)年528日に成立し、同年64日に公布された。

2.改正法の具体的な施行期日

施行期日は「公布から3年以内」すなわち2024(令和6)年64日までという期限が定められた。具体的な施行期日は、後述の取組や国民全体への周知啓発と言った施行前の準備の進捗状況を踏まえつつ、政令で定めることになる。もっとも、後述の両議院における附帯決議では、早期の施行が求められていることから、期限である2024(令和6)年64日よりは早く施行されることが見込まれる。

 

Ⅲ 改正内容

1.事業者に対する合理的配慮の提供義務化

 改正法8条2項では、合理的配慮の提供が現行法の努力義務から義務へと改正される(改正法8条2項)。

この背景には、法施行以降多くの事業者が合理的配慮の提供に取り組んでおり、各地方公共団体でも、事業者に合理的配慮の提供を義務付ける条例の制定が進んでおり、また、2021年に行われた東京オリンピック・パラリンピック大会を契機とした官民の取組み等も広がっており、事業者による合理的配慮の提供は一定の定着が図られてきていることがある。

障害者政策委員会の委員からも「障害者権利条約においては、合理的配慮の否定を含む障害に基づくあらゆる差別が禁止され、公的主体と私的主体との区別なく合理的配慮を提供することが求められている。このため、同条約との関係では、事業者についても合理的配慮の提供を義務化することにより、条約との整合性を確保する必要がある」といった意見が出ていたところ、条約では、合理的配慮の提供を確保するためのすべての適当な措置をとること(第5条3)等が求められていることからしても、意見書では障害者政策委員会の法の見直しに当たっての基本的な考え方として「条約の理念の尊重及び一層の整合性の確保を図る観点から見直しを行うことの重要性」が示されていた。

そのため、今般、事業者による合理的配慮の提供を義務化し、建設的対話の促進や事例の共有、相談体制の充実等を図りつつ、事業者を含めた社会全体の取組を進めていくこととなった。

2.国及び地方公共団体の連携協力に係る責務の追加

 「国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策の効率的かつ効果的な実施が促進されるよう、適切な役割分担を行うとともに、相互に連携を図りながら協力しなければならないものとする」(改正法32項新設)という一文が新設された。

 今後は、市町村・都道府県・国(内閣府・各省庁等含む)といった行政機関相互間の役割分担及び連携の強化が図られることになる。

3.障害を理由とする差別を解消するための支援措置の強化

 以下の差別解消のための「支援措置」(法第4章のタイトル名)を強化するための措置が講じられた

ア 基本方針に定める事項として、障害を理由とする差別を解消するための支援措置の実施に関する基本的な事項を追加する(改正法64号)

 改正法の円滑な施行が図られるよう、後述のような相談体制の充実や事例の収集・共有の取組等の支援措置の強化等を図ることが必要であるため、基本方針に定める事項として「支援措置の実施に関する基本的な事項」を加え、基本方針の中でも重要な位置づけとした。

イ 国及び地方公共団体が障害を理由とする差別に関する相談に対応する人材を育成し又はこれを確保する責務を明確化する(改正法14条)

 国及び地方公共団体は、「障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう」「必要な体制の整備を図る」(現行法14条)とされているところ、増加される相談件数や多種多様な相談に適切に相談対応できるには、的確に相談に応じ、解決を図ることのできる人材の育成・確保を図ることが重要である。

 障害者政策委員会でも見直しの考え方として、「相談対応を担う人材の育成及び業務の質の向上」として「合理的配慮の提供に係る助言、調整等を含めた関係機関等における適切な相談対応や、障害者差別に関する事案の効果的な解決が図られるよう、広域支援相談員その他の相談対応を担う者に対する研修やマニュアルの作成等を行うことにより、必要な専門性も有する人材の育成や業務の質の向上を図るべきである」と示されたところである。

そのため、国及び地方公共団体が障害を理由とする差別に関する相談に対応する人材を育成し又はこれを確保する責務が明確化された。

ウ 地方公共団体は、障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報(事例等)の収集、整理及び提供に努めるものとする(改正法162項)

 既に国に対しては、現行法16条にて事例の収集・整理・提供をすることが定められ、例えば、内閣府HPでは、合理的配慮等具体例データ集「合理的配慮サーチ」[2]があり、障害種別や生活の場面(行政・教育・公共交通等)毎の事例集が作成・公開されている。これは行政機関及び事業者へ合理的配慮の実施を促し、また検討にあたっての参考となるものである。

このような取組みを国だけではなく、地方公共団体に対しても実施することを定め、各地方公共団体での事例の収集・整理・提供を通し、合理的配慮への理解・実施を促そうというものである。

 

Ⅳ 衆議院・参議院における附帯決議

なお、法改正にあたって、衆議院では16の項目、参議院では18の項目について附帯決議がされている(参議院で独自に新設された項があり、また衆議院の附帯決議内容は全て参議院決議内容に含まれているため、附帯決議を参照されるときは、参議院の附帯決議を参照すればよいと思われる)。

実務上注目すべき点としては、附帯決議の中で、「合理的配慮の提供に当たっての意思の表明について、知的障害等により本人の意思の表明が困難な場合には家族、介助者等が本人を補佐して行うことも可能であることを、国の各行政機関、地方公共団体及び事業者に十分に周知すること」(参議院附帯決議14項)、「国の各行政機関又は地方公共団体が合理的配慮を提供しない場合は、その理由を障害者側に十分説明することに努め、その旨を国の各行政機関及び地方公共団体に周知徹底すること」(参議院附帯決議16項)等と示されており実務上も重要な指摘が見られる。

 

Ⅴ 改正法施行に向けての準備作業(障害者政策委員会における基本方針改定等)

1.今後は、改正法施行に向けて、法6条に基づく「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(平成27年2月24日閣議決定。以下「基本方針」という)の改定に向けての議論が障害者政策委員会でスタートしている。

基本方針の改定にあたっては、障害者政策委員会の意見を聴かなければならない(法6条4項・6項)。そこで、障害者政策委員会では検討にあたり、地方公共団体・事業者団体から不当な差別的取扱い・合理的配慮の提供・相談体制・啓発活動・事例の提供等の項目につき、事例や改善意見等に関してヒアリングが実施されている最中である。当事者団体・関係団体からのヒアリング実施も予想される。

2.基本方針は政府の障害者差別解消施策を総合的・一体的に実施するため作成されるものであり、実務上重要な位置づけとなるものである。

基本方針の改訂における論点も多岐にわたるが、注目すべき点の1つとして、改正法でも障害を理由とする差別について何が差別に当たるのかについて漠然としているところ、両議院の附帯決議4項では「基本方針において、障害者の権利に関する条約の精神にのっとり、差別の定義に係る基本的な考え方を明記することを検討すること」を求めており、物差しとなるものがないという課題に対して、改定基本方針で差別について何らかの基準が示されるかどうか、議論に注目したい。

3.さらに、改正法施行にむけて、基本方針の改定に続き、各省庁においては、法9条に基づき職員向けに対応要領を、法11条に基づき事業者向けの対応指針も見直すことになる。基本方針や対応要領・対応指針は、PDCAサイクルの観点に立った仕組みであり、障害者差別解消の一層の推進に向けて、基本的な考え方や具体例の内容をより充実させていくことが求められる。

あわせて、各地方公共団体においても、法10条に基づく対応要領の作成・見直しのみならず、障害者差別解消の一層の推進に向けて、人材の育成・確保をはじめとした相談体制の整備等様々な対応・一層の取組が必要となってくる。

 

Ⅵ 今後の課題

1.しかしながら、今般の法改正が、障害者差別の現状に是正の効果をもたらすかどうか、障害当事者にとって真の「共生社会」の到来を期待できるかといえば不十分である。

2.そもそも、2016(平成28)年4月から施行された障害者差別解消法の効果も限定的かつ不十分であるため、障害者権利条約の完全実施・障害者差別解消法の実効性の確保のため、日本弁護士連合会は、2019年(令和元年)1121日、『障害者差別禁止法制の見直しを求める意見書』を発出し、主に、次のような問題点を指摘した。

・「差別」の定義規定を設け、禁止の対象として直接差別・間接差別・関連差別が含まれることが明記されていないこと。

・差別的取扱いや合理的配慮に関して、障害者権利条約のように分野ごとの具体的内容が定められていないので、分野ごとに新しい規定を設けること。

・合理的配慮の発生要件として「意思の表明」を削除し、障がいのある人の意向を十分に尊重しなければならないとすること。

・「過重な負担」の立証責任を合理的配慮提供の主体が負うことが明記されていないこと。

・国会と裁判所は「行政機関等」にはあたらず、障害者差別解消法の対象外であること。

・政府から独立した紛争解決機関等を設置し、実効的な体制を整備すること。

3.しかしながら、これらの重要な問題点につき、今般の法改正での見直しは実施されなかった。

また、国が、民間事業者による合理的配慮の提供実施が法の理念通りに行われることを保証するための支援制度もない。例えば、事業主が合理的配慮を提供する際に生じる経済的負担にかかる国からの助成制度は設けられなかった。

さらに、率先して実施すべき行政機関等さえ、障害者差別解消法の理念や合理的配慮の概念について真に理解し、履行義務を果たしているとは言い難く、また障害当事者が行政機関等に相談・合理的配慮を求めても、理解の欠如や「前例がない」「財政上困難」などと言った理由で安易に拒否されやすく、実効性ある解決や救済につながりにくい現状がある。

結局、今般の法改正で事業者の合理的配慮が法的義務化されたとはいえ、実質上は、事業者の自主努力と、障害当事者の「意思の表明」+「建設的対話」という自己努力・自己負担に委ねられているともいえ、合理的配慮提供の実施が法の理念通りに行われるための実効性が十分確保されているとは言い難い。障害者差別解消法をより実効的なものにしていくためには、いまだ残る課題は多い。

 

[参考文献]

・障害者差別解消法解説編集委員会「概説障害者差別解消法」(法律文化社2014年)

・伴睦久(内閣府政策統括官付参事官付上席政策調査員)「障害者差別解消法の改正について」新ノーマライゼーション20219月、10

・野村茂樹弁護士・「改正障害者差別解消法の概要と企業対応の留意点」ビジネス法務202112月、105

 



[1] 内閣府障害者政策委員会HPより。https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/k_60/pdf/s1.pdf

[2] 内閣府「合理的配慮等具体例データ 合理的配慮サーチ」https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/